カテゴリ:循環器編

循環器編6 犬の動脈管開存症(PDA)

2023/04/16


 コラムの作成を長い事サボってしまいました・・・。
 不定期になりますが、犬猫の心臓病についてまた少しずつご紹介していこうと思います。
 少しでも興味をもっていただけたら幸いです。



 今回のお話しは、犬の動脈管開存症(PDA:Patent Ductus Arteriosus)という病気についてです。
 この病気は犬で最も多く見られる先天性心疾患なのでご紹介しようと思います。
 治療しなければうっ血性心不全に進展する病気であり、国内ではミニチュアダックスフンドやマルチーズ、トイプードルなどの雌に多く見られます。


【病態】 
 赤ちゃんはお腹の中にいるときは、母犬から胎盤を通して酸素の供給を得られるため、肺が機能していません。
 動脈管とは、お腹の中にいる赤ちゃんの体内で肺動脈から肺を介さず大動脈に血液を送る為の血管であり、生まれて肺が機能しだすとすぐに閉鎖します。
 ところが何らかの異常で生まれてから動脈管が閉鎖せず、開いたままになっている状態を動脈管開存症といいます。
 通常は大動脈のほうが肺動脈よりも血圧が高いため、開存した動脈管を通して血液が大動脈から肺動脈に流入(左ー右短絡)し、肺を通って左心房に還流しますが、肺の血流量が増加してしまうため肺に負担がかかります。すると咳が出るようになったり、肺に水が溜まって呼吸困難に陥る肺水腫を生じたり、病態の進行とともに肺高血圧症を生じたりします。
 肺高血圧により肺動脈圧が大動脈圧と等しくなるか高くなると動脈管の短絡血流の逆転(右ー左短絡、アイゼンメンジャー化)がおこり、肺動脈の静脈血が大動脈に流入し全身をめぐるようになるため、低酸素状態となり粘膜色が青紫色(チアノーゼ)になります。この状態をアイゼンメンジャー症候群といいます。アイゼンメンジャー化した状態が長く続くと呼吸状態が悪化したり、多血症となって血液がドロドロになってしまい、大事な血管に詰まってしまったりなどして(過粘調症候群)全身状態は著しく悪化します
【診断】
1、聴診
 左側心基底部で連続性雑音という特徴的な心雑音が聴取されます。

2、レントゲン検査
 様々な程度で心拡大を呈します。
 肺水腫を起こすと肺が白くなります。

3、心エコー検査
 動脈管開存症の診断には心エコー検査が必須です。
 動脈管の形態や動脈管からの短絡血流を検出し、重症度や手術の可否まで診断します。
【治療】
 動脈管開存症は数少ない根治を望める先天性心疾患であり、治療はインターベンション治療(カテーテル治療)や外科手術による動脈管の閉鎖を行います。
 アイゼンメンジャー化してしまうとカテーテル治療や手術は不適応となり、内科治療によるコントロールとなるため、早期の治療が望まれます。

1.インターベンション治療
血管内にカテーテルを入れ動脈管までアプローチし、コイルやアンプラッツァという人工の詰め物を動脈管内に埋め込み、動脈管の閉鎖を行います。

2.外科手術(動脈管結紮術)
肋間開胸を行い動脈管を糸やクリップで結紮して閉鎖します。

3.内科治療
 基本的に動脈管の閉鎖が必要ですが、手術が出来るようになるまでの間、心臓や肺の負担を軽減するため、強心剤や利尿剤などを用いることがあります。
 アイゼンメンジャー化している場合は、肺高血圧や多血症のコントロールを目的とします。肺血管拡張薬や瀉血(過剰な血液を抜く)処置等が用いられます。


【予後】
 早期に診断され、いずれかの治療により動脈管がうまく閉鎖されれば、予後は良好です。
 アイゼンメンジャー化した場合は基本的に予後不良であり、内科治療が必要です。


 この病気は早期に発見され、きちんと治療されれば完治する数少ない先天性心疾患です。逆に発見が遅れて呼吸困難に陥ると命に係わることのある病気でもあります。

 心臓の音に雑音があると言われた、呼吸が荒い、咳をする等、少しでも気になることがあったらまずは聴診をさせてください。

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