カテゴリ:循環器編

循環器編2<イヌのフィラリア症(犬糸状虫症) 概略・予防編>

2021/05/20
 だいぶ温かくなってきてお散歩に出るのが気持ちいい季節になってきましたね。
 ところが温かくなってくると気にしなければいけないのが、ノミやマダニ、フィラリアの寄生です。
 本格的な予防シーズンが始まりますので、今回はイヌのフィラリア症について触れてみようと思います。


*犬フィラリア症の概略
 イヌのフィラリア症(別名:犬糸状虫症)は簡単に言うと、
『寄生虫であるフィラリアの幼虫(ミクロフィラリア)が蚊を媒介してイヌの体内に入って成長し、心臓や肺動脈に寄生して心臓や肺の機能障害を引き起こす感染症』
です。

 症状は感染虫体数や感染期間によって異なりますが、無症状から元気・食欲の低下、咳、削痩、呼吸困難、胸水・腹水貯留、血色素尿、失神、突然死など様々です。

 イヌが外で飼われている事が多かった一昔前には、死因として特に多かった病気でもあります。

 室内飼育が多くなった最近ではあまり見かけなくなりましたが、都会でも引き取った保護犬などで見られることがあります。

 一度感染してしまうと治療するのは非常に大変な病気ですが、薬をきちんと投与すればほぼ100%防げる病気なので、予防薬の投与がとても重要になります。

 予防期間は地域によって変わってきますが、概ね『蚊が出始めて1ヵ月後から出なくなった1ヵ月後まで』です。

 大和市周辺では5月下旬~11月下旬の7ヵ月間になりますね。

 予防方法は、事前の検査で感染のないことが確認出来たら毎月1回予防薬を投与する、もしくは、半年から1年間有効な注射で予防する、になります。

 薬で予防されている方はシーズン最後の投薬が最も重要で、これを忘れると、侵入した幼虫が駆除されずに次の春には成虫に育って感染が成立してしまう可能性がありますので気を付けましょう。


*感染のメカニズム
  1.  フィラリアに寄生されたイヌの血液中には、0.5~1㎜程度のミクロフィラリアと呼ばれるフィラリアの幼虫がいます。
  2.  蚊の吸血時にミクロフィラリアが蚊の体内に移行し、感染幼虫(L3幼虫)に成長します。
  3.  蚊の体内にいた感染幼虫が、別のイヌを吸血したときにイヌの体内に移行します。
  4.  イヌの体内に移行した感染幼虫は2~3ヵ月かけてL4幼虫に成長し、血管内に侵入、最終的に肺動脈や心臓に移動します。
  5.  6~7ヵ月かけて成虫となったフィラリアはミクロフィラリアを産出し、再び蚊に吸血される機会を待ちます(1に戻る)。

*症状

 少数のフィラリア虫体の寄生では症状が出ないこともありますが、フィラリアが肺動脈や心臓に大量に寄生すると、血管障害や血液循環不全を生じます。
 慢性のフィラリア症では肺動脈の不可逆的な線維化が起こり、肺の血圧が上がる肺高血圧症を引き起こします。
 肺高血圧症は低酸素血症や胸水腹水(右心不全)から元気・食欲の低下、削痩、腹囲膨満、咳、呼吸困難などが生じ、最悪、失神や虚脱を呈して突然死することもあります。
 また、赤血球が壊れて尿が赤くなる血色素尿を起こすことがあります。


*なぜ予防前に検査が必要か

 フィラリアの予防薬は、蚊に刺されるのを予防する薬ではなく、蚊に刺されてイヌの体内に侵入したフィラリア幼虫をその都度駆除し、成虫になるのを防ぐための駆虫薬です。L3、L4幼虫に対し効果的に作用します。また、ミクロフィラリアも駆除するため、体内にミクロフィラリアがいる状態で薬を使用すると、ミクロフィラリアが一度に大量に死滅しアレルギー反応を起こしてイヌがショック状態になり、最悪の場合死に至ることがあります

 これを防ぐために、フィラリア予防を始める前に必ず検査が必要なのです。

 ここまでが犬フィラリア症の概略・予防編になります。

 イヌのフィラリア症について、少し興味を持っていただけましたか?
 最近の予防薬はおいしく作られているものが多く、毎月の予防薬を楽しみにしている子も多いのではないでしょうか?
 次回は犬フィラリア症の治療編を書いてみようと思いますので、興味がある方はぜひ覗いてみてください。

コラム担当:下山

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